-
Notifications
You must be signed in to change notification settings - Fork 0
/
Copy pathtubakro.txt
368 lines (177 loc) · 11.6 KB
/
tubakro.txt
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
103
104
105
106
107
108
109
110
111
112
113
114
115
116
117
118
119
120
121
122
123
124
125
126
127
128
129
130
131
132
133
134
135
136
137
138
139
140
141
142
143
144
145
146
147
148
149
150
151
152
153
154
155
156
157
158
159
160
161
162
163
164
165
166
167
168
169
170
171
172
173
174
175
176
177
178
179
180
181
182
183
184
185
186
187
188
189
190
191
192
193
194
195
196
197
198
199
200
201
202
203
204
205
206
207
208
209
210
211
212
213
214
215
216
217
218
219
220
221
222
223
224
225
226
227
228
229
230
231
232
233
234
235
236
237
238
239
240
241
242
243
244
245
246
247
248
249
250
251
252
253
254
255
256
257
258
259
260
261
262
263
264
265
266
267
268
269
270
271
272
273
274
275
276
277
278
279
280
281
282
283
284
285
286
287
288
289
290
291
292
293
294
295
296
297
298
299
300
301
302
303
304
305
306
307
308
309
310
311
312
313
314
315
316
317
318
319
320
321
322
323
324
325
326
327
328
329
330
331
332
333
334
335
336
337
338
339
340
341
342
343
344
345
346
347
348
349
350
351
352
353
354
355
356
357
358
359
360
361
362
363
364
365
366
367
368
新潟県。燕市。
小さい頃に僕の住んでいたこの町は自然に恵まれいろんな文化が混在する。まさに僕の憧れの町そのものだった。
そして燕市を離れて五年。かつて少年だった僕は晴れて社会人となった。
そして僕の新生活はこの燕市で始まる……。
ブロロロロロ
「新潟は冬が大変なんだから頑張らんとね」
あ、はい!がんばります!ありがとうございました!
ブロロロロロ
……タクシーの運転手さんってほんとよく喋るなあ。いろいろ生活の知恵を教えられちゃったよ。
ここが今日から僕の住むアパートか……。……まあ、新卒の一人暮らしのアパートなんてそうそう新しくはないよね。雪で潰れさえしなければ……。
Prrr!
あ、母さんだ。もしもし?
「ああ、繋がった。あんたちゃんとそっちの家についた?」
うん。今着いたところ。とりあえず部屋に入りながら電話するね。
「うん。そうしなさい。どう?その季節じゃ雪ばっかでしょ」
雪かき大変そうだね。ははは。
「笑い事じゃないわよ。雪に潰されて困るのはあんたなんだからね」
雪なんか雪だるま作ってりゃそのうち消えるでしょ。心配しすぎだって。
「その心意気でいるなら潔く潰れなさい」
実の息子に向かってひどい!
「まあそんなことはどうでもいいのよ」
息子が潰れるか否やの生死を決める問題をそんなこととは……。
「とりあえず就職よ。第一に就職。第二に就職。三と四はなくて五に就職よ」
そんな就職しちゃ逆にまずいでしょ。
「それくらいの心意気で、ってことよ。就職氷河期は終わったなんて言って足元すくわれても知らないわよ」
ははは。就職なんてどうせ流れで決まるよ。心配ないさー。ははは。
「……そっちって雪積もってるんでしょ?」
そうだよ。それが何か?
「二、三時間雪に埋もれて頭冷しておきなさい」
死ぬわ!息子の頭部何だと思ってんの!?……って切ってるし。
……ったく。心配しすぎなんだよ。今頃どこの大学だって就職率90%越えてるってのに。
よりによって僕が就職できないわけないじゃん。よりによってこの僕が、さ。
春
らーらーらーさくらー。今回は採用かなー?不採用かなー?不採用だよー。らららー。
……今度の面接ん時の特技これにしよっかなー。即興不採用ソング作曲。
すると特技見せるために不採用にならなくちゃなー。こりゃダメだー。はあ……。
お祈りメールか……。こんなに祈られてるのに就職できないのは御社の祈りが足りていないのではないでしょうか。……僕が足りてないだけか。はあ……。
…………。
はあ……。
桜並木
春になるまでのこの数ヶ月間。
僕だって全力を出しきった。やれることは全部やったし。失敗も成功も味わって人間的にも成長したはずなんだ。
あとは採用されるだけだね!
ほんとうに……あとは採用されるだけでそれ以外になんだってやることは見つからないんだ……。
成長したのになあ。面接官が感じ取ってくれなきゃ何の意味もないや。鈍感な面接官が悪いのやら……。
それとも次からは履歴書に書いておこうかな。名前の横にはver.2.8.6.4。年齢の横にはLv.286!
うーん……妙案?
「……ィ……ピィ……ピィ……」
やっぱりこの辺りは自然がいっぱいだなあ。鳥の鳴き声すら身近に感じるよ。
「ピィ……ピィピィ……ピィ……」
あれ?近すぎない?まるでそこの茂みにいるような……。
がさがさ
「ピィピィ……ピィ?」
いた──────!?
ってただのヒナじゃん。確かに生で見るのは珍しいかもしれないけどそんなに驚くことじゃ……。
「ピィピィ!ピィピィ?」
でも、こいつ…………。
……どうやって飛んできたんだ?
「ピィ?ピィピィ?ピィ!」
近くに巣は見当たらないし……親鳥も見つからないけど……。
……お前……飛べるのか?
「……ピイ?……ピ、ピ、ピイ!」
バサッ
おお!
少しも浮いてない!
「ピイ……ピッ!」
自慢気にされてもキミ、飛べてなかったし……。こういう場合どうすればいいんだろ。
…………。
…………。
……現代人らしくネットで調べよ。
……へー。ふーん。そうしてそうすると、ああ、そうなるからそうするのね。なるほどなるほど。
「ピィ?」
とりあえず怪我してないふうだし巣を探しに行くか。
「ピィッピイ!」
少ない鳴き声のバリュエーションで必死に工面してるなあ。
*物語の進行上、主人公達は巣を探しに行きますが実際にヒナを見つけた際は都道府県の鳥獣保護部署に従った行動をしてください。
夕方
見つからないなあ。
「ピィピィ……ピィ」
(ここに仮の巣を作ってこいつを置いてくのも立派な救済措置なんだけど……)
(これだけ探していない親鳥がこいつを見つけてくれるだろうか)
(もし間違えてカラスにでも見つかってしまったら?)
(食事は?気候は?誰がこいつを守ってくれるんだ?)
……やっぱり、僕の家に。
(……まだ仕事も見つかってないのに。責任を持てるのか?自分の生活とこいつの生活。こいつを持って帰るっていうのは互いの生活に責任を持つということだ)
(どうするのか。これがそれを決める最後の機会なんだ)
…………。
「……ピィ?」
あ、ああ。ごめん。ちょっと考えてたんだ。すぐ終わるよ。
「…………ピィ……ピッ!」
ん?どうした?突然手から飛び降りたりして……。
「……ピィピィ」
……もう探さなくていいって言いたいのか?
「ピィピィ。……ピッ!」
走った!?うわ!ちょっ!待てって!
……気合いの割に全然速くない。歩いていても追いつくわ。
ヒョイ
「ピピピピピピピッ!……ピィ!?」
悪いけど持ち上げさせてもらったよ。一人で逃げたってどうにもならないでしょ。
「ピィ…………」
……そんなに足遅かったら絶対に天敵に捕まるし。
「ピィ……!」ガーン
ショック受けるな。鳥は飛べるまで安全な家にいればいいんだよ。
「ピィ……ピィ?」
……うん。家で飼うよ。お金は……どうにかバイトしたりして。
「ピィピィ?」
ああ。大丈夫だよ。……たぶん大丈夫。大丈夫……、かも。
「ピ……ピィ」
(母さんが聞いたらまた楽観的すぎるって言われるんだろうなあ)
(でもやっぱり見捨てられない。お金は……たぶんどうにかなるよね)
家
ただいまー……って誰もいないや。
「ピィ!」
はいはい。キミのねぐら作りますよー、っと。
テキパキドンドンカチャカチャバコーン
はい、できた。
「ピィピイ!」
本当は巣の端端まで光る匠の技を一つ一つ説明してあげたいところだけどテキストの無駄だからやめておくよ。
「ピ、ピイ?」
Prrr
お、電話だ。
「ピピピピ」
もしかして着信音のモノマネ?あまり似てないよ?
「ピイ……!」ガーン
ガチャ
はい。もしもし。
「仕事にはもう就きましたか?」
……人違いです。
ガチャ
「ピ、ピイ?」
あ、ああ。母さんの声だったけど初っぱなにあんな強烈なボディーブローを打ってくる人なんてきっと母さんじゃないよ。いや、母さんじゃないと僕は信じたい。
「ピ、ピィ……」
Prrr
はあ……。
ガチャ
「今度切ったら仕送りなくすわよ」
365日24時間母上専用回線にするのでそれだけは勘弁してください。
「分かればいいのよ」
……で、なに?母さん。
「あんた。まだ職に就いてないのよね」
ふ、フリーター……?
「職に就いてないじゃん」
ですよねー。
「それで家族会議を開いたのよ。あんたの無職について」
なにそれすごく恥ずかしい。
「恥じる暇があれば就職しなさい。……で、その会議の結果あんたがこっちに帰ってくることになったから」
へー。……ってなに!?そんなの聞いてないよ!?
「だって今言ったもの」
息子が出席してなくて何が家族会議だ!だいたい父さんは僕の引っ越しに賛同してくれてたじゃないか!
「そりゃあ父さんも最後まで好きにやらせてやれ、って言ってたけど……」
と、父さん……!
「あんたの仕送りやめたら父さんに新品のゴルフクラブ買ってあげる、って言ったら急に態度を……」
父さぁん!?
「何もすぐ帰ってこいってわけじゃないの。今日から一年後までにまだ無職だったらさすがに帰ってきなさいって。地元なら母さんだってあんたの就職先紹介してあげられるし」
で、でも僕にはここにいなきゃいけない理由が……「ピイピイ!」うわ!ちょっと黙っ……なんでもありません。母上。
「いや……今、鳥の鳴き声が……」
僕のお腹の音だよ。鳥のヒナなんて拾って飼ってるわけないでしょ。ははは。
「……まさか鳥のヒナを拾って飼ってるんじゃないでしょうね」
……ナニヲイッテルカボクワカンナイ。
「あんた、自分の職の世話すらできてないのにペットなんて……!」
……え!ごめん、電波悪くて聞こえない!一旦切るね!あと電話線も抜ける予定だからリダイアルとか繋がらないからよろしく!お元気で!
「なにを言って……!」
ブチッ
あ、危ないところだった……。
ったく。電話中に急に喋らないでよ。
「ピ、ピィ……」
……それにしても一年後には戻らないとなのか。
すると今から一年以内にキミを巣立ちさせないと……。あれ?そういえばキミの名前がないや。
「ピィ?」
だいたいキミって何の種類?ツバメにしてはずんぐりしてない?
「ピイ……!」ガーン
確か……こんな鳥がいたような。
ツバメによく似た燕市特有の鳥種……。
……そう!つばくろだ!
*名前を自由設定にするならここで設定。
これから一年。よろしく!つばくろ!
「ピイ!」